中国でエイズ耐性持ちのデザイナーズベイビーが誕生したように、優生学の是非がこれまで以上のリアリティをもって問われる時代となりました。
当記事では、将来的にヒトの優生学が一般化するのは避けられない。
という懸念を、野良猫の保護活動で見えてくる現実に基づいてお伝えします。
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野良猫の保護活動は、デザイナーズベイビーの実証実験
どうぶつ基金さんのさくらねこチケットを使い、野良猫のTNR活動※を行いました。
※ TNR活動とは(trap, neuter, return)の頭文字であり、
野良猫を捕獲(trap)し、不妊手術(neuter,)を施し、元の場所に戻す(return)活動のこと。野良猫の繁殖を防ぎつつ、殺処分を回避する活動。
ようするに、野良猫を最小限の苦痛で絶滅させる計画。
猫のTNR活動、すなわち猫の優生学の現場を見ると、人間の残酷な本音を思い知らされます。
私たちは、カワイくてよく懐く猫が大好きです。
しかし、それ以外の猫は、、、別に好きではない。
それどころか「目につかない場所で死んでくれればいい」と心の底では思っている人が大半です。(だから殺処分されています。)
だってモフモフできないネコなんか、なんの興味もないのだから。
他にも里親が見つかりにくい条件があります。
病気持ち、既に成猫になっている、ヒトに懐かない、などが筆頭でしょうか。
つまり「カワイイ!は正義」(醜さは悪)というのは、優生学の肯定に他なりません。
猫の保護活動には、その本音が顕著に現れています。
これらの現実は、そのままヒトの優生学にも当てはまるとしか思えません。
というか、それをほぼ裏付ける現実があります。
カワイイは正義!それは優生学の肯定
優生学とは簡単にいえば、カワイイ存在だけを繁殖させて増やすことです。
種や遺伝子に優劣をつけて繁殖をコントロールし、優れた個体を増やすことでよりよい社会を目指す営みです。
(様々な意味で)カワイくない存在に対しては、不妊手術をしたり殺したりして、確実に社会から抹殺します。
優生学、あるいは優生学的な思想を基にした行為は、以下のとおりです。
家畜の交配、愛玩動物の品種改良、ハンセン病患者への強制不妊手術、ナチスによるユダヤ人の大量虐殺、ペットの殺処分、出生前診断、中絶手術、デザイナーズベイビー、などなど。
つまりこんな感じです。
野良猫のTNR活動はある種の優生学です。たとえ善意から行われているとしても。
「TNRは善行ではなく苦肉の策」と言われる理由がここにあります。
さらに言えば、猫だけを保護する営みもある種の優生学です。
猫は真正肉食動物です。彼らが生きるには、他の動物の犠牲が不可欠なのですから。
だというのに、
現場の愛猫家は目の前のネコを救うこと以外には、あまり関心がなかったりします。
まぁこれ以上話を広げると、哲学的になって収拾がつかなくなるのですが、、。
とにかく、
「猫の保護活動と優生学は、切っても切れない関係にある」
とお分かり頂けたかと思います。
ちなみに、この大きな猫も優生学の産物です。
白い外見を維持するために近親交配が繰り返され、健康を害するに至ったホワイトタイガーです。
現実を知れば、無邪気に「カワイイ!」とは言っていられなくなります。
→ 2018/6/12 近親交配の産物、ホワイトタイガーをやめれば万事解決?その次がある
TNRの歯がゆさは、救うために産まない反出生主義
TNRには奇妙な倫理的なねじれが見られます。
・カワイイ猫を救うために、あえて繁殖能力を奪っていること。
・「生命はみな平等だ!」と猫のために奔走する一方で、キャットフードの中身がどうやって製造されたかを考えない活動者たち。
・野生化に生まれた猫は不幸で、人間の管理下に生まれた猫は幸福である、とする奢り。(もし人の管理下に生まれた猫であっても、カワイくない個体は敬遠される)
もし、人間が野良猫の繁殖を制限することが、猫を救うことになるというのなら、猫に備わった繁殖能力は、呪われた能力ということになってしまいます。
野生動物は全て不幸ということにもなります。家畜化が進み、もはや野生では生きられないカイコのような種ならともかくとして。
「TNRは動物愛護というより慈悲深い獣害対策」と考えれば気が楽になるかもしれません。
個人的には、TNRは現状ではベストの選択肢だと考えています。
しかし、能天気に猫を愛護しているだけでは先がありません。もう1段上に行かなければ。
ヒトでもネコでも、選べるなら選ぶのが人間
保護した野良猫の里親を募るために、譲渡会に通っていた際に痛感しました。
それは、成猫の里親を見つけるのは、非常に難しいことです。
ありふれた外見や、人に懐きにくい性格であったり、猫エイズのキャリアなどの条件が重なると、輪をかけて困難になります。
里親がすぐに決まるのは、仔猫やロシアンブルーなどの人気品種ばかり。
この状況はまるで、デザイナーズベイビーの選定をする未来人のようです。
そりゃそうですよね。子ども(に近いペット)を選べるのならば、カワイくて健康で幼い個体がいいに決まっています。その気持はよくわかる。本能的にわかる。
つまり、選べる環境さえあれば、子どもを選別するのは当然ということです。これは選ぶ対象が猫からヒトの赤ちゃんになっても、急に変わることはないでしょう。
すなわち、デザイナーズベイビーが歓迎されることは、ほぼ間違いなしということです。
こうなると、つい考えてしまいます。
耳障りのよい命の重みなど存在せず、人権なんてのもお題目に過ぎないのでは?
結局は自分にとっての損得、利用価値が全てではないのか?
私はよくわかりません。
わからないから、考えを深めたくて猫保護活動をやった部分もあります。
動物が家族になる時、優生学をどう捉え直すか
優生学を巡る議論では「ヒトへの実施は絶対にNGだが、その他の生物にならOK」との結論となりました。その産物が今日の家畜や愛玩動物たちです。
ペットを家族と考える人が増え、動物の保護活動が活発化してきた現代、ペットの扱いをヒトに近づけようとする動きが加速しています。
そんな中、ペットへの優生学をどう考えるか?
真剣に考え直すべき時期ではないでしょうか。
それは私達が動物に(ひょっとしたら人間に対しても)向けている愛情の本質を、鮮明に映し出す鏡となることでしょう。
ちなみに、世の中にはあえて障害を持つ子どもを養子に迎える方や、人に懐かない成猫の里親になる方が存在しています。いわば逆優生学です。
彼らの価値観は、愛情を受け取ることよりも、与えることを重視しているように見えます。
正解のない問いではありますが、これらの課題が深く理解された社会は、きっと住みやすい世界となることでしょう。
それこそが、動物たちが人間に与えてくれる、最高のプレゼントなのかもしれません。
プレゼントがほしい
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