万人におススメできる素晴らしい絵本をご紹介します。
「のにっき-野日記-」著:近藤 薫美子氏
死生観を表現する作品の、ある種の完成形と思えるほどの出来です。
それもそのはず。この絵本は自然現象を忠実に描写しつつ、その理解をポップに促すものだからです。普通の作品なら直接的には描かないであろう「生物が自然に還っていく様子」を、リアルかつ可愛く伝える作品です。
一応子供向け絵本のカテゴリーですが、万人の心を揺さぶるパワーを持っています。
幼児から大人にまで「死」を楽しく伝える離れ業
「のにっき」のストーリーは、一匹の親イタチが死んでから自然に還るまで、を時系列に沿って描いているのですが、その様子をリアルに描いています。ある意味ではとてもグロイ話です。
それでいて不思議と怖くないのが特徴です。なぜか崇高な印象を受けます。
きっと著者である近藤 薫美子氏は、死や腐敗を汚いものではなく、神秘的かつ日常的な現象として捉えているのでしょう。そのスタンスがにじみ出る作品です。
またこの絵本は眺めてるだけでも楽しいです。自然の全体性が丁寧にやさしく描かれているから。語らずして語るとはこのことか!と膝を打つクオリティです。
イタチの死骸を囲む小動物たちが、それぞれの立場で躍動する姿は、なんだか人間の子供たちを眺めているようなほっこり感があります。出産や死別を経験した後に読み返すと、さらに感動できるかもしれません。
「解体が進むイタチと群がる小動物たち。更に季節が廻ると・・?」
一分で読めるのに、一生味わえる
死生観をテーマにした作品というと、長くて重いのが多いじゃないですか?
例えばホロコーストを生き延びた精神科医の「夜と霧」とか。タイトルからして直接的な「戦争と平和」とか。世界中で読まれてる名著で、確かに面白いんですけど、、、
長い。読んでる時間がない。
他にも価値があると言われてるものは、聖書でも仏典でもでもなんでも、とにかく長い。内容が良いのにもったいない。
でも「のにっき」は15ページ位で文章もほぼなし。
流し読めば1分。しかし何度でも読み返せる奥深さ。
自然科学や哲学と同じことを言っていても、伝える力がメチャクチャに高いんです。
ここがポイントです。小難しい思想書を全部燃やしたくなります。
普遍的なテーマを時代に沿った表現で
考えてみれば「のにっき」の話は日々起きている事柄です。そこら辺の空き地でも世界全体でも。
生物が生まれては死ぬ。食って食われて、季節が巡ってまた繰り返す。
その光景は地獄にも天国にも見てとれます。
そんな本来当たり前の話に引き込まれるのは、私たち現代人は何かがマヒしてるからとしか思えません。
本作では狭い範囲の生態系を描いていますけど、尺度を変えれば人間だって同じこと。
私たちは宇宙から見ればチリです。虫や微生物よりも小さな存在。
私たちは自分で生きてるつもりでいるけど、実際は世界に生かされているだけです。身体も心も何一つ所有してはいない。
だから自然体で生きればいいんでしょうね。絵本の虫たちのようにあるがままに。
そんな風に思わせてくれる作品です。
また「自然体で生きられるようになる」というのは、あらゆる思想が目指す理想像です。
そのヒントを与えてもらった私としては、この絵本は歴史的な名著、例えば聖書や仏典よりも実質的に価値があるかもしれません。大事なのは内容ではなく、伝え方だからです。
よくミッションスクールとかで生徒全員に聖書を配ってますけど、殆ど読まれてないそうで。
当然です。分厚過ぎるし読みづらい。
あんなの自責の念にかられた受刑者くらいしか読もうとしません。しかも読んでもチンプンカンプンときています。わかりづらいから。
代わりに「のにっき」を配った方がいんじゃないでしょうか?
きっとその方がよく伝わります。表現は受け手のために存在するのであって、書き手の自己満足ではないはずですから。(耳が痛い)
時代に受け入れられるための表現として、「のにっき」は最高峰のお手本だと思います。
蝶のように舞い蜂のように、、
アイキャッチはPixabayのPublicDomainPicturesによる画像です
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